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松山地方裁判所 昭和56年(行ウ)2号 判決

原告 真鍋政秋

被告 建設大臣

訴訟代理人 西口元 都嵜清孝 丸西仁 深川正夫 伊藤二郎 藤井正彦 外七名

主文

原告の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が行つた、昭和五〇年三月二八日付建設省告示第五〇四号にかかる東予広域都市計画道路事業二等大路第一類第一号西条駅前朔日市線についての都市計画事業認可及び昭和五六年三月三日付建設省告示第三一八号にかかる右都市計画事業の変更の認可がいずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件各訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和二六年五月二三日決定され昭和三一年五月七日変更された東予広域都市計画道路事業二等大路第一類第一号西条駅前朔日市線(以下右都市計画を「本件都市計画」、それにかかる右道路を「本件計画道路」ということがある。)について、総延長約二八一〇メートルのうち西条市朔日市字秋吉から同市新田字北新田まで約七六〇メートルの区間の都市計画事業(以下「本件都市計画事業」ということがある。)に関する愛媛県からの都市計画法(以下「都計法」という。)五九条三項(昭和四九年法律第七一号による改正前のもので、現行法五九条二項と同じ規定。)の事業認可申請に対して、都計法六一条により施行者を愛媛県、事業施行期間を昭和五〇年三月二八日から昭和五六年三月三一日までとしてこれを認可し、右認可は昭和五〇年三月二八日付建設省告示第五〇四号で告示された。被告は更に、都計法六三条一項により本件都市計画事業の施行期間を昭和六〇年三月三一日まで延長する旨の変更を認可し、右認可は昭和五六年三月三日付建設省告示第三一八号で告示された。(以上二つの認可を合わせて以下「本件認可」という。)

2  原告は、右により認可された本件都市計画事業の事業地内に土地を所有する者である。

3  本件認可処分の行政処分性(被告の本案前の主張に対する反論)

(一) 都計法六二条一項による都市計画事業の認可の告示があつた後においては、当該事業地内において都市計画事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物の建築その他工作物の建設等を行おうとする者は都道府県知事の許可を受けなければならなくなり(都計法六五条一項)、また当該事業地内の土地建物等の有償譲渡は施行者の先買権の対象となる(都計法六七条)。したがつて、当該事業地内の土地所有者は、都市計画事業の認可によりその所有権の行使に対して具体的な制限を受けることになる。

(二) 都市計画事業の認可は土地収用法二〇条の規定による事業の認定に代わるもので(都計法七〇条一項)、右認可があると都市計画事業の施行については土地収用法の適用があり、事業地内の土地は同法に基づく収用権の対象となる。

(三) このように、都市計画事業の認可は、事業地内の土地所有者の権利義務に対して具体的な効果を及ぼすものであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分であることは明らかであり、これが行政処分ではないとしてその取消しないし無効確認を求める抗告訴訟の途を閉ざすことは憲法三二条、一一条、一三条、二九条等に違反する。

4  被告の行つた本件認可は以下の理由によりいずれも無効である。

(一) 本件都市計画の無効

(1) 本件計画道路は、昭和二六年五月二三日の本件都市計画決定当時には、国鉄伊予西条駅前から、西条市内を東西及び南北にほぼ格子型に走る既存の道路網のうち南北方向の道路とほぼ平行に、北方に向け直線で株式会社倉敷レーヨン西条工場(以下「クラレ工場」という。)前まで延びた延長約二〇四〇メートルの区間(別紙図面一の緑色表示部分。)につき計画決定されていたが、昭和三一年五月七日右計画が一部変更され、本件計画道路は、同図面に赤色で表示されたとおり、壬生川新居浜野田線付近から東北方向に約一二度くの字型に折れ曲がることになつた。

そのため、以下のような不都合が生じるに至つた。

(イ) 別紙図面二表示のように、一筆あるいは一区画の土地の一部が本件計画道路用地として利用された後に数多くの利用価値の乏しい三角形や不整形の狭小な残地が生じることになり、したがつて、土地の有効な利用が妨げられ、良好な居住環境をそなえた街づくりが阻害される。

(ロ) 本件計画道路は、それに隣り合つて南北に走る住民のための生活道路である市道朔日市弁財天線と別紙図面一表示のように斜めに交わることになつて、同市道の交通の流れを著しく阻害し、同市道のうち同図面の黄色表示部分はほとんど交通のため役立たない不要道路となつてしまう。

(ハ) 本件計画道路は既存の格子型の道路網に対して斜めに交わるため、別紙図面一の茶色表示部分に不整形の不良な街区(街の中の道路で囲まれた各一区画をいう。)が生じることになり、良好な街並みの形成が著しく阻害される。

(2) このように、本件計画道路は付近住民の生活環境を大きくそこない良好な居住環境をそなえた優れた街並の形成及び円滑な都市活動の実現を阻害するもので、土地利用の合理性にも反し、このような道路の敷設をその内容とする本件都市計画は、都計法一二条の四第三項、一三条一項、二項、土地収用法二〇条、幹線道路の沿道の整備に関する法律九条三項三号に違反する。そして、本件都市計画の右瑕疵は重大かつ明白なものであるから、本件都市計画は無効であり、したがつて被告の本件認可も無効である。

(二) 事業施行期間の不適切

昭和五〇年三月二八日付告示にかかる本件都市計画事業の認可によれば事業施行期間は同日より昭和五六年三月三一日までとされており、同年三月三日付告示にかかる認可ではそれが昭和六〇年三月三一日まで延長されたが、本件計画道路が現在計画されている位置に敷設されるべく決定されたのが昭和三一年五月七日であるから、それから右事業施行期間の終期までの間は約二九年にも及んでいる。したがつて、そのような長期に亘る事業施行期間が不適切、不当なものであることは明らかであり、その間事業施行地内の土地所有者である原告は都市計画に伴う権利制限を受け続けてきたのであつて、このような本件都市計画事業を認可した本件認可は、憲法一三条、都計法六一条一号に違反し、重大、明白な瑕疵があるから無効である。

(三) 施行者の民主的施行能力欠如

本件都市計画事業の施行者である愛媛県には民主的な事業施行能力が欠如しており、そのような愛媛県を施行者として本件都市計画事業を認可した本件認可は、重大、明白な瑕疵を帯びているから無効である。

5  よつて、原告は、被告を相手方当事者として、本件認可の無効を確認する裁判を求める。

二  被告の主張

1  本案前の主張

(一) 本件認可は、被告が愛媛県知事に対してした行政の内部行為にすぎず、直接国民の権利義務に対して具体的変動を与えるものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。

(二) 都計法の規定する都市計画事業には、都市計画施設の整備に関する事業及び市街地開発事業があるが、都市計画施設の整備に関する事業と市街地開発事業のうちの土地区画整理事業とについて、その認可手続及びそれに伴う権利制限等の法的効果を比較すると、両者は極めて類似した手続、効果を有している。そして、最高裁判所昭和四一年二月二三日大法廷判決は、土地区画整理事業の事業計画の公告に伴う権利制限は「当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき法律が特に付与した公告に伴う附随的な効果にとどまるものであつて、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない」とし、「事業計画は、それが公告された段階においても、直接、特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、また、宅地・建物の所有者又は賃借人等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分ではない」旨判示している。したがつて、右判例の趣旨は都市計画施設の整備に関する事業にかかる本件の場合にもそのまま当てはまり、本件認可は、その告示に伴って都計法六五条、六七条等の権利制限の法的効果が発生するとしても、それは本件都市計画事業の遂行に対する障害を除去するための必要に基づき法律が特に付与した告示に伴う附随的効果にとどまり、本件事業の認可ないしその告示そのものの効果として発生する権利制限とはいえず、しかも、かかる権利制限はそれ自体抽象的な可能性の域を出ないものであるから、本件認可は直接特定個人に向けられた具体的処分とはいえず、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しない。

(三) このように都市計画事業の認可が抗告訴訟の対象に当たらないと解しても、都市計画事業の遂行によつて生じた権利侵害に対する救済手段が一切閉ざされるわけではなく、都計法六五条等の権利制限の規定に違反している者に対して都計法八一条一項による工事の停止、建築物等の改築、移転、除却等の措置命令が出されたり、収用裁決がなされるなど、具体的に権利制限の効果を生じるような処分が行われた段階で、それらの処分を受けた者は、その違法、無効等を主張してそれに対する抗告訴訟を提起することができるのである。したがつて、都市計画事業の遂行による権利侵害に対する救済は右のような抗告訴訟を認めることにより十分その目的を達せられるのであり、具体的な権利変動の効果を生じない都市計画事業の認可の段階でそれに対する抗告訴訟を認めることは、必要性にも乏しくまた事件の成熟性にも欠け、許されない。

2  本案に対する答弁及び被告の主張

(一) 請求原因1、2の事実は認める。

(二)(1) 同4(一)(1)第一段(冒頭から「くの字型に折れ曲がることになつた。」まで)の事実は認めるが、その余は争う。

都市計画施設の整備に関する都市計画決定を行う場合、必要な位置に適切な規模で都市計画施設を設置しようとすれば、不整形、狭小な残地あるいは街区が生ずることがあるのはやむをえないところであり、法はそのような場合に備えて、残地の価格が減ずるなどして不利益を被る土地所有者等利害関係人に対しては残地補償、残地収用等の請求権を保障しているのである(土地収用法七四条ないし七六条)。したがつて、不整形、狭小な残地あるいは街区が生ずることが都市計画決定の適法性に影響を及ぼすことはあり得ないと解すべきである。

また、本件都市計画事業が完了すれば、別紙図面一表示のとおり、市道朔日市弁財天線のうち黄色表示部分は交通上不用となり、右道路部分と本件計画道路にはさまれた部分には細長い三角形の不整形地ができることになる。しかし、市道朔日市弁財天線は、農業用道路として管理されていたものが市道として認定された幅員三メートル未満の道路で、付近の市街化開発が進めば一般交通の用に供する道路として不十分な規模のものになることが明らかであり、土地区画整理事業等により適切な規模で適切な位置に変更されることが予想されるし、本件計画道路の供用開始に伴い不用になる前記部分は、道路の供用廃止又は区域変更が行われる予定である。したがつて、本件計画道路が市道朔日市弁財天線の交通の流れを阻害すること及び本件計画道路と市道朔日市弁財天線にはさまれた部分に不整形な街区が生じることを前提とする原告の主張は失当である。

(2) 本件計画道路が昭和三一年五月七日の本件都市計画の変更(以下「本件計画変更」という。)により現在の位置に計画決定された理由は次のとおりである。

本件計画道路は、当初の本件都市計画では、別紙図面一に緑色で表示されたとおり国鉄伊予西条駅前からクラレ工場前までの延長約二〇四〇メートルの区間につきほぼ直線で決定されていたが、クラレ工場の更に北方の海岸に埋立造成される予定の工場用地(これについては昭和五五年三月二四日埋立造成工事が予定どおり完了した。)と国鉄伊予西条駅前、西条市の市街地並びに西条市と他市とを連絡する二・二・一倉絹南通線及び一・三・一新屋敷飯岡線(旧名称二・二・二古川橋下島山線)とを結んで安全かつ円滑な通勤、業務交通を確保できる道路が必要になることが明らかであつた。そこで、本件計画道路を右埋立造成地まで延伸する必要が生じたが、この必要を満たすため従前の計画路をそのまままつすぐ延長することにすると、道路はクラレ工場内の主要な工場設備の所在場所を貫通することになり、これを実現するに必要な工場設備の移転補償や営業補償は膨大な額に上ることになる。そのような計画はとうてい容認され得ないところである。したがつて、本件計画道路は、クラレ工場内においては主要工場設備の設置されていない別紙図面一の赤色表示部分のうち二・二・一倉絹南通線以北の部分に設けられなければならないが、この場合、従前の計画路の形をなるべくそのまま維持しようとすると、本件計画道路を二・二・一倉絹南通線とT字型に交差させ、二・二・一倉絹南通線を一部利用した後、それとT字型に交差する形で北方に曲げて右埋立造成地まで延伸させることになる。しかしながら、そのような路線を採用すると、西条市の市街地と右埋立造成地とを結ぶ交通が二・二・一倉絹南通線上の近接した二地点で右左折を強いられ、かつ、当該交通と二・二・一倉絹南通線を直進する交通とが二つのT字型交差点の間の区間において輻輳することになつて、円滑な交通の確保が困難になり、また、交通事故の危険性の大きい交差部を無用に増加させることにより安全な交通の確保という点からも問題を生じることになる。このような問題点の存する路線を避け、可能な限り直線に近い形の路線を採用し安全かつ円滑な交通を確保するため、本件計画変更により本件計画道路が現在の位置に計画決定されたのである。

本件都市計画決定は、右のように、予測される交通需要に対応して安全かつ円滑な道路交通を確保するという公共の利益の実現のためには本件計画道路が現在の位置に設けられるべきであるという判断のもとになされたものであり、それにより原告が主張するような不整形な街区が生ずる等多少の不都合が生ずるとしても、右判断が都市計画決定権者に与えられた広範な裁量権の範囲内のものであることは明らかであり、右判断が裁量権の範囲を逸脱した重大かつ明白な違法を帯びたものであるとはとうてい言えない。

(3) 同4(一)(2)は争う。

(三) 同4(二)前段の事実(「約二九年に及んでいる。」まで)は認めるが、その余は争う。

(四) 同4(三)は争う。都市計画事業認可においては、事業主体が地方公共団体や国の機関等確実な事業遂行をなしうると見込まれる者に限られているので、施行者の事業施行能力が問題となる余地はない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本件認可の概要等

被告は、昭和二六年五月二三日決定され昭和三一年五月七日変更された東予広域都市計画道路事業二等大路第一類第一号西条駅前朔日市線について、総延長約二八一〇メートルのうち西条市朔日市字秋吉から同市新田字北新田までの約七六〇メートルの区間の都市計画事業に関する愛媛県からの都計法五九条三項(昭和四九年法律第七一号による改正前のもので、現行法五九条二項と同じ規定。)の事業認可申請に対して、都計法六一条により、施行者を愛媛県、事業施行期間を昭和五〇年三月二八日から昭和五六年三月三一日までとしてこれを認可し(右認可は昭和五〇年三月二八日建設省告示第五〇四号で告示された。)、更に、都計法六三条により、本件都市計画事業の施行期間を昭和六〇年三月三一日まで延長する旨の変更を認可した(右認可は昭和五六年三月三日付建設省告示第三一八号で告示された。)こと、原告が右により認可された本件都市計画事業の事業地内に土地を所有することは当事者間に争いがない。

二  本件認可の行政処分性

被告は、本件認可は行政の内部行為にすぎず、また、直接特定個人の権利義務に具体的変動を及ぼすような処分とはいえないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない旨主張する。しかしながら、都市計画施設の整備に関する事業については、事業計画ないしその変更の認可に伴い都計法六二条一項の告示がなされると、当該都市計画事業地内における都市計画事業の施行の障害となるおそれがある建築物の建築等は都道府県知事の許可を要することとなり(都計法六五条一項。その違反に対しては八一条の措置命令が出され、それが九一条により罰則をもつて強制される。)、また当該都市計画事業地内の土地建物等の有償譲渡は施行者の先買権の対象となる(都計法六七条)ほか、都市計画事業の認可は土地収用法二〇条の規定による事業の認定に代わるもので(都計法七〇条一項)、右認可があると、当該都市計画事業地内の土地は土地収用法に基づく収用権の対象となり、収用又は使用の裁決により施行者のため収用又は使用されることになる。したがつて、都市計画事業ないしその変更の認可は事業地内の土地所有者の権利義務に対して具体的な変動を与えるものであり、直接個人に対する権利制限の効果を及ぼす具体的処分ということができるから、坑告訴訟の対象となる行政処分と解すべきである。最高裁判所昭和四一年二月二三日大法廷判決は、土地収用法二〇条の事業の認定に代わる効力を有しない土地区画整理事業計画の決定はその公告がなされても抗告訴訟の対象たる行政処分とはならないとするもので、都市計画事業の認可の場合とは事案を異にし、右判決の趣旨から都市計画事業の認可が抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないということはできない。したがつて、本件認可は抗告訴訟の対象となる行政処分というべきであり、その無効確認を求める本件訴えは適法であつて、この点に関する被告の主張は採用できない。

三  本件認可の適法性

1  本件都市計画の適法性

(一)  本件計画道路は、昭和二六年五月二三日の本件都市計画決定当時には、国鉄伊予西条駅前から、西条市内を東西及び南北にほぼ格子型に走る既存の道路網のうち南北方向の道路とほぼ平行に、北方に向け直線でクラレ工場前まで延びた延長約二〇四〇メートルの区間(別紙図面一の緑色表示部分)につき計画決定されていたが、昭和三一年五月七日右計画が一部変更され、本件計画道路は、同図面に赤色で表示されたとおり壬生川新居浜野田線付近から東北方向に約一二度くの字型に折れ曲がることになつた。

右事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告は、本件計画変更により本件計画道路が既存の格子型の道路網に対して斜めに交わるようになつたため、〈イ〉別紙図面二表示のように多くの利用価値の乏しい三角形や不整形の狭小な残地が生じることになり土地の有効な利用が妨げられる、〈ロ〉市道朔日市弁財天線と別紙図面一表示のように斜めに交わる結果同市道の交通の流れを著しく阻害し、同市道のうち同図面の黄色表示部分はほとんど交通のために役立たない不要道路となる、〈ハ〉別紙図面一の茶色表示部分に不整形の不良な街区ができ、良好な街並みの形成が阻害される、等の不都合が生じることになり、したがつて、本件都市計画は都計法一三条一項、二項に違反し(なお、原告が違法根拠として主張するその余の法条は都市計画施設の整備に関する都市計画の内容を直接規律するものではない。)、その瑕疵は重大、明白であるから無効であり、その結果本件都市計画事業の認可もまた無効になる旨主張する。

しかし、都市計画の決定には高度の技術性、専門性を伴うのは当然であり、これを都市計画施設の一つである道路の整備に関する都市計画についてみても、道路の位置、規模、構造等の決定は、決定権者が当該都市の土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを幅広い視野及び様々な角度から検討して高度の技術的、専門的、行政的見地から行うべきもので、その決定に当たつては決定権者に極めて幅広い裁量が認められており、裁判所がその当否を判断できる余地は極く限られているというべきである。そして、都市計画の内容が違法であるから無効であるというためには、その内容に決定権者の右のような極めて幅広い裁量権の範囲を明らかに逸脱したと認められるような重大な違法事由が存することが必要である。そこで、原告が本件で主張する違法事由が右に述べたような重大、明白な違法であるか否かについて検討する。

まず前記〈イ〉の違法事由については、都市計画施設の整備に関する都市計画決定を行う場合ある程度不整形あるいは狭小な残地が生ずることがあるのはやむをえないところであり、法はそのような場合を予定して、残地の価格が減ずるなどして不利益を被る土地所有者等利害関係人に対しては残地補償、残地収用等の請求権を制度的に保障しているのであり(土地収用法七四条ないし七六条)、したがつて、原告が本件で主張する程度の不整形、狭小な残地が生ずることが都市計画を無効とするまでの重大、明白な違法事由であるとはとうてい言えない。

次に、前記〈ロ〉の違法事由についてみると、本件計画道路が市道朔日市弁財天線と斜めに交わるため、同市道の交通が右交差部分で停滞し、同市道のうち別紙図面一の黄色表示部分が交通に役立たない不要道路となることも予想されるが、その場合には右不要道路部分について道路の供用廃止、区域変更等の措置がとられることも十分考えられ、本件計画道路が同市道と斜めに一ケ所で交差するからといつてそれだけの理由で本件都市計画が無効であるとまでいうことはとうていできない。

更に、前記〈ハ〉の違法事由についてみると、右に述べたように市道朔日市弁財天線の右不要道路部分について道路の供用廃止、区域変更等の措置がとられることも十分考えられ、その場合には本件計画道路と同市道の不要道路部分との間の不整形、狭小な街区はほとんどなくなることになるし、また、たとえ原告主張のような不整形な街区ができたとしても、そのために不利益を被る残地所有者に対しては前記のように残地補償、残地収用等の請求権が認められているのであり、したがつて、原告が主張するような不整形な街区ができることが都市計画を無効にするような重大、明白な違法事由といえないことも明らかである。

最後に、右〈イ〉、〈ロ〉、〈ハ〉の各違法事由を総合して一体のものとして検討してみても、右に述べてきたところに照すと、決定権者に与えられている前記の広い裁量権の下で本件都市計画を無効とするに足るほどのものとすることはとうていできない。

(三)  以上検討したように、本件都市計画にはそれを無効とするような重大、明白な違法事由は認められず、本件都市計画が無効であるから本件認可も無効であるという原告の主張は理由がない。

2  本件認可についてのその他の違法事由

(一)  事業施行期間

本件認可にかかる本件都市計画事業の施行期間は最終的に昭和五〇年三月二八日から昭和六〇年三月三一日までとされた。本件計画道路が現在計画されている位置に敷設されるべく本件都市計画の変更がなされたのは昭和三一年五月七日であるから、それから右事業施行期間の終期までの間は約二九年の長期にわたることになる。しかし、都市計画施設の整備に関する都市計画は、相当の長期的展望に立つて都市計画施設の整備、充実をはかるという観点から決定される場合が往々にしてあるのは当然であり、その事業の施行、完成までには相当の長期間を要することもめずらしくないのであるから、右事業施行期間の定めが本件認可を無効とするような重大、明白な違法事由であるとまでいうことはできない。

(二)  施行者

本件認可における施行者は、都計法により事業施行者となることが認められた地方公共団体である愛媛県とされているのであつて、この点に何らの違法がないことは明らかである。

四  結論

以上によれば、原告が本件認可の無効事由として主張する点はすべて理由がなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下和明 高橋文仲 山垣清正)

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